谷口 智宏インタビュー
maison shintenchi第三回の展示として作家の谷口 智宏さんに展示をしていただくこととなりました。
より多くの方に谷口さんの作品について知っていただくため、作品について、制作についてお話を伺いました。
谷口さんについてお聞かせください。
美術や芸術にはいつごろから興味があったのでしょうか。
―いつ頃か明確には分かりません。小学校の頃から図画工作や漫画の落書きとかは好きでした。中学生のある時、ふと写実的に絵を描いてみたら思った以上に上手く描けて、一人で有頂天になってました。
彫刻科出身ということですが、彫刻を専攻するにいたった過程を教えてください。
―彫刻に進んだのは、高校の頃に所属していた美術部の顧問の先生にそそのかされたのがきっかけです。先生に「超難関の東京芸大に入れたらカッコいいぞ」と言われ、更に「普通、何浪もしないと受からないけど、彫刻専攻なら倍率が低くて受かりやすいぞ」と。そういう美大に進む道もあることを知って、自分としても絵は好きだけど絵の具を使うのは苦手で、彫刻は都合が良いものでした。実際、粘土塑造をやってみて性に合ってたので、そのまま彫刻に進みました。
立体作品を作る面白さを教えてください。
―何よりも、自分の描いたイメージが目の前に物体として具現化できるところですね。
絵画は、いくら描いてもそれが絵の中からで出てくることはありません。立体(彫刻)は現実の世界に実際に存在することができます。反面、物理的な制約が加わるのが難点ですね。空を飛ぶ人の絵を描くのは簡単ですが、空を飛ぶ人の立体物を飛ばすのは至難の技ということです。
今まではどのような展示をされてきたのでしょうか。
―恥ずかしながら、あまり語れるものはありません。実は数年前まで、作品を展示することに消極的でした。作品を作り出した始めの頃は、木彫で人体などの具象的なモチーフを彫っていたのですが、それを展示空間に設置することまでは想定していませんでした。当時は自分の作りたいものを作っていただけで、人に見せたいとは全く考えていませんでした。ですので展示といってもギャラリーの常設展に加えてもらうとか、個展でも作品が綺麗な見えるように配置する程度のものでした。
その後、サイトスペシフィックという考え方を知り木彫以外の作品も作るようになり、展示することにも興味を持つようになりました。サイトスペシフィックとは、展示空間そのものに重きを置き、その場所でしか出来ないことを表現することを言います。古い蔵で展示した時は、外壁の漆喰の白が太陽光の反射で眩しかったところから、内部の展示会場内ではLEDライトを使った人工的な眩しい壁を設置しました。サイトスペシフィックを意識した展示は、自分の発想だけでなくその場所からもインスピレーションをもらいながら制作するので、常に新しい経験が得られるので刺激的でした。
今回の展示作品について
今回のような作品になったきっかけなどお聞かせください。
―今回の作品は、染料をぽたぽた点滴する装置を使って布を染めていくインスタレーションを行います。2014年の常滑フィールド・トリップで発表した作品が元になっています。常滑フィールド・トリップは、常滑の古い家屋が立ち並ぶ「やきもの散歩道」と呼ばれる観光ルートにもなっているエリアで空家や店舗等を展示会場に利用したアートイベントです。僕が展示会場にしたのは、昔、盆栽鉢を保管する倉庫だったところで、作品のアイデアは盆栽から出発しました。盆栽は、何十年も掛けて楽しむ園芸です。そこから、ゆっくり変化する作品を作りたいと思い立ち、布をゆっくり染料で染めていく方法を考えました。
(今回の展示の)作品が完成するまでの工程をお聞かせください。
―まず、作品制作の一番最初の工程としては展示会場の下見をすることです。今回の作品は展示構成の仕方で全てが決まってしまうので、会場を知ることも作品制作の一部になるのです。具体的にどんなことをするかというと、メジャーなどを使って会場内のいたるところを計測しまくります。計測した大半は後で使われることがなかったりするのですが、計測する中で、色んな場所を観察したり、色んな視点で会場を見渡すことができるので、結果的に計測した数字以上のものが得られます。次に、計測したデータから会場の模型を制作します。本当は、展示会場で制作するのが理想ですが、そうもいかないので模型を作ってイメージを固めていきます。模型を作ることで更に建物の特徴等、新たな発見があったりします。会場の模型が完成したら、模型を利用しながら作品のイメージや構成を考えていきます。いつもは、この工程を踏みながらどんな作品にするか考えていきますが、今回はどんな作品にするか決まっていたので、規模と構成を決めていきます。それが決まると作品に必要な材料等を集めます。あとは搬入日に材料を設置して展覧会が始まります。ここまでの説明で、制作らしい制作はしてないのですが、実は今回の作品は完成形を見せるものではありません。展覧会の会期中にわたり作品が出来上がる過程を楽しむものになっています。作者は布と染料を落とす装置を設置するだけです。
作品を作る上で大切にしていること、意識していることはなんですか?
―自分の内省的な想像よりも、また作品の形式(木彫であるとか人体であるとか)よりも、自分が何をどう受け止めたか。それにどう応えるかを大切にしたいと思っています。自分の想像力や技術は大したこと無いと思っているので。。
どんなものに影響を受けて、作品が変化してきたと思いますか?
―割と感化されやすいタイプで、自分が好きな作家に影響されてます。始めのころは、舟越桂や、ジャコモ・マンズー、シュテファン・バルケンホールなどの具象彫刻。インスタレーションやコンセプチャルアートを作るときは、展示空間ありきで作るので、その空間での制作の経験がそのまま作品に影響されていきます。
制作で使っているこだわりのアイテムを教えて下さい。
―特にこれというのはありませんが、何か必要な道具を買うときは、ちょっと良いやつを選んでしまいます。業務用とか書いてあると弱いです。
谷口さんご本人への質問です。
最近読んだ本で、興味深かったもの、面白かったものを教えてください。
― J・M・G・ル・クレジオ著の「地上の見知らぬ少年」というエッセイです。
エッセイなのに始まりが小説みたいな文章だったりして非常に読みにくい本ですが、クレジオの物事の見方や捉え方や、その重要性について書かれています。
アトリエを改装していると伺いましたが、どのような空間をイメージしているのでしょうか。
―今までは、作品を作ることで精一杯で、丈夫な床とか高い天井とか制作の快適さしか求めてなかったのでしたが、最近は、展示するときのイメージも重要だと感じているので、ギャラリーのようなプレーンな空間にしたいと思っています。
今後やってみたいことはありますか?
―いつか建築もやってみたいです。空間を主体として彫刻を拡張していくと、空間自体を作り出す建築は避けられないと思いますので。
谷口さん、お忙しいなかお話有難うございました。
11月25日(金)より展示が始まります。ぜひ谷口さんの世界観を見にきてくださいね。
谷口 智宏 “TRANSITIONS”
【開催日時】
2016-11-25 〜 2016-12-04
13:00-19:00
opening party(無料)
11/26(土) 18:00-
谷口智宏 | TANIGUCHI Tomohiro
1982年生まれ、彫刻家、現在愛知県を中心に制作活動。
谷口は東京造形大学彫刻専攻(2006年卒)で人体彫刻を学び、木や漆などを用いた日本の伝統的な木彫技法で具象彫刻を制作してきた。
2010年、愛知県立芸術大学大学院に進学、空間そのものを主体としたインスタレーションを学び、以来、材料や方法にとらわれない表現で作品を制作している。最近は、動きや変化のある素材に興味を持っている。